雑記 in hibernation

頭の整理と備忘録

2021年 - 今年出会った3×3【映画編】

今年出会ったものの中で特に印象的だったコンテンツについて、書籍・音楽・映画の3つのトピックそれぞれで3冊・3枚・3本に絞ってまとめておきます。今年リリースではなく、あくまで「今年僕が出会ったもの」なので、基本的にリアルタイム性は皆無です。 まず【映画編】です。去年に引き続き、「今更映画祭」続行中です。


スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)

概要

みなさんご存知スパイダーマン、初のアニメーション映画化作品です。実写映画といえばサム・ライミ版やマーク・ウェブ版、MCU版など、「スパイダーマン」ことピーター・パーカーを主人公した作品が有名ですが、『スパイダーマン:スパイダーバース』はマーベルコミックスの『スパイダーバース』シリーズを原案とし、並行世界の様々なバリエーションのスパイダーマンたちが協力して悪に立ち向かうストーリーになっています。

あらすじはこちら。

スパイダーマン:スパイダーバース - Wikipedia

感想など

『スパイダーバース』のヤバさを伝えるには、ひょっとするとこの説明だけで十分かもしれません。「あのクリストファー・ミラーフィル・ロードが製作に関わっていて、その技巧が遺憾なく発揮されている」。そう、あの名作『LEGO ムービー』制作の中心となったあいつらの最新作なのです。

LEGO ムービー』がいかにヤバい作品であるかはこちらに書いた通りですが、『スパイダーバース』においても、その美点はほぼ同じ、いや、むしろよりアップデートされているように感じます。

まずこの映画、ルックスが強すぎる。開始1分の映像で「これ絶対最高のやつじゃん」と確信すること請け合い。カートゥーン吹き出しスクリーントーン、キースヘリングのようなどこかポップアート的なエフェクト、グリッジ風の現代的でノイジーなエフェクトなど、2D,3Dの次元を超えて異質な表現がこれでもかとぶち込まれたCGアニメーションは眺めているだけでテンションが上がってしまいます。さらにアクションシーンともなると、この画面が視点ごとぐりぐり動くものだから、もうたまりません。詳しいことはネタバレになるので控えますが、特にクライマックスではカオスなシチュエーションのサイケ感マシマシな映像に没入することができます。

そして、超かっこいい映像だけでもうお腹いっぱいなところに加えて、ストーリーテリングや登場人物たちの関係性の描き込みの密度もハンパじゃないというのがまた凄まじい。ストーリー上、主人公に葛藤を生む(つまり物語の中心となる)関係性として大きく2つの軸があります。一つは親子関係、もう一つは師弟関係です。この2つの物語が「前半のセリフが全く異なる意味合いを持って後半で使われる」とか「同じシチュエーションで行動が対比になっている」とか、そんなパズルのように綿密な演出の積み重ねに裏付けられた説得力で進行してゆくのです。そしてそれらの演出はごく自然に動作や会話の隙間、時にはギャグに仕組まれ、異常にキレの良い編集を駆使し、テンポ感は一切損なわない手際の良さ。数回見直した程度では発見が尽きないほどの情報量の多さには感服するほかありません。というか、そもそも「親子関係」と「師弟関係」なんて2つも論点要らんのですよ。1つでいいのに、2つ捌いて上映時間は2時間切ってますからね。意味わからん。

並行世界のスパイダーマンたちのキャラクターも(もちろんピーター・パーカーも)愛らしくてとても良いです。もうキリがないのであまりツッコミませんが、この雑多感(今風に言えば多様性ってやつでしょうが)こそ、パラレルワールドやシェアードユニバースが盛んに取り入れられるアメコミという題材を扱う意義ではないかと思いました。この「テーマの徹底」の面でも、『LEGO ムービー』と地続きの作家性を感じずにはいられません。

ってことで、これはもう絶対おすすめです。誰が見ても面白いと思います。文句なしにおすすめです。 とか書いていいたら、来年新作公開との噂が。やったー。

eiga.com


いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち(2017)

概要

イタリアのコメディ映画『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』の続編として製作された続編2部作の前編にあたるのが本作です。前作は各々の事情でアカデミアの世界を追放された研究者たちがその知識を悪用してドラッグで一儲けを企む、という物語でした。その続編に当たる今作では前作から一転、お馴染みのメンバーと新たに加わった元研究者たちが警察の非公式捜査チームとしてドラッグを撲滅すべく奔走します。

あらすじはこちら。

いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち - Wikipedia

感想など

これ、マジでくだらないです。一応「社会派コメディ」らしいんですけど、完全にナンセンスコメディだと個人的には思います。まあ確かに「研究者、冷遇されがち問題」は日本においても他人事ではなく、この手の話題は万国共通なんだなぁ、とは思いました。が、基本的にこのシリーズにおいてこの社会問題に対する何かしらのアンサーが提示されることはないです。あと、登場人物たちは基本的に何も反省しません。ただ無邪気に己の能力を己の満足のために振るう、それだけです。先に紹介したスパイダーマンのシリーズで繰り返し主張されてきた「大いなる力には大いなる責任が伴う」の真逆をいってます。

本シリーズ監督のシドニー・シビリアNetflixオリジナルで『ローズ島共和国 〜小さな島の大波乱〜』の監督も務めていますが、これも「技術者が勝手に島を作って、お国に邪魔されて頓挫した」以上の意味は何もない作品でした。いくらでもメッセージ性を込められそうなテーマを無為な青春の一幕として消化する(でもそれはそれでちゃんと面白い)ってのがこの方の作家性なのでしょうか。

g.co

そんなわけで、このシリーズを「社会派」だと思って期待して観ると、おそらく不快感だけが残って終わります。一作目『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』を見た僕がそうでした。しかし2作目は違います。すでにこの作品が社会派の皮を被った倫理観ぶっ壊れナンセンスコメディであることは了承済みだからです。その前提で観ると、2作目の、特に前編の『10人の怒れる教授たち』は最高に楽しめる作品でした。

このシリーズが面白さのキモは、フォーマットとしては過去の名作を周到しつつ、「大学を追われた研究者たち」という題材で新鮮に見せた点ではないかと思います。一作目『7人の危ない教授たち』は、そのあらすじに『オーシャンズ11』を連想した人は少なくないでしょう。負け組の元研究者たちを一人一人勧誘して回る主人公の姿は『少林サッカー』を彷彿とさせ、負け犬が一念発起する熱さがありました。まあ結局のところ蓋を開けてみれば、どこをどうみても登場人物たちに感情移入の仕様がない『ウルフ・オブ・ウォールストリート』だったわけで、僕はそのあたりに戸惑いを覚えてしまったのですが。

では今作はというと、これはもう『スーサイド・スクワッド』です。『スーサイド・スクワッド』といえばザック・スナイダー版のアレは個人的にちょっとアレでしたが(ジェームズ・ガンの方は未視聴)、こっちの悪徳研究者くずれverの方はマジ最高です。冒頭にはご丁寧にキャラ紹介まであって、各位の特殊能力(=専門分野)を手際良く紹介してくれます。こういう演出、超アガりますよね。

今作は前作よりも振り切っていて、より派手に、より馬鹿らしく、そしてより倫理のタガがぶっ壊れたアクションを観せてくれます。ディテールはあえて触れません。その点で2作目前編は最高。

残念なのは、2作目後編に当たる『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』には若干尻窄みの印象を受けてしまう点です。広げた風呂敷を畳むことに専念しているのか、くだらないアクションシーンは控えめです。また、クライマックスも若干地味で、中盤の盛り上がりと比較すると少し見劣りしてしまうかもしれません。また、後編が存在することを前提にした前編であるがゆえに当然前編のオチ部分も弱く、前編を単体楽しむにも少し物足りません。

とはいえ、シリーズ通してしっかり面白いですし、多少の不満は2作前編『10人の怒れる教授たち』の楽しさで十分お釣りがくる程度なので、総じてめちゃめちゃ楽しめたコンテンツでした。


クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(1997)

概要

クレヨンしんちゃんの劇場映画版シリーズ第5作目です。「クレヨンしんちゃん」というコンテンツ自体に対する説明は不要でしょうが、「クレしん映画」というシリーズの位置付けには解説が必要かもしれません。1993年の『アクション仮面VSハイグレ魔王』以降、ほぼ毎年1作のペースで作り続けられている長寿シリーズであり、中でも名作と名高いシリーズ9作目『モーレツ! オトナ帝国の逆襲』や、最近ではシリーズ22作目『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』など、エンターテイメント映画として一定の高評価を受けているコンテンツでもあるのです。

そんなシリーズの5作目 『暗黒タマタマ大追跡』は「クレしん映画」の評価の確立に寄与した初期作品群の一つで、本作をクレしん映画のベストにあげるファンも少なくありません。

あらすじはこちら。

クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡 - Wikipedia

感想

なんのきっかけか、そういえばクレしん映画ってあんまり観てないな、とふと思い至りまして、評判の良い初期作『ヘンダーランドの大冒険』と『栄光のヤキニクロード』を観たのですがコレがびっくりするほど性に合わず。一応最後にもう一本だけチェックしておくか、ということで鑑賞した本作がとんだダークホースで、まさかこれが今年もっともアツかった作品の一つになるとは思いもよりませんでした。

成長も描く、ギャグも描く、ストーリーも描く。両方やんなくていいのに全部やっちゃってるのがこの映画の凄いところです。覚悟なんかできてなかったので正面からくらってしまいました。基本的に言いたいことは全部フィルマークスに書いていて、以上!って感じです。

filmarks.com

この作品で最も素晴らしいと思ったのは、ストーリー上の重要なシーケンスが基本的にギャグをベースに進行していく点です。特にクライマックス、クレしん映画史上最強・最恐と名高いボスキャラを、中盤の伏線を活かしつつコミカルな(そして超しょーもない)アクションシーンで制する流れは異質で、最高に笑えつつ最高にカタルシスのある名シーンだと思いました。ちなみに次作の『電撃! ブタのヒヅメ大作戦』も非常に評価が高いですが、こちらは割と真面目なスパイ組織のメンバーを実質的な主人公として物語が進行するせいか、真面目なアクションが主、ギャグが従のように感じられ、あくまでギャクをベースに話が進んでいく『暗黒タマタマ大追跡』と対照的なように感じました。

唯一残念なことは、おそらくこの作品が手放しに評価されることは多分ない、ということでしょう。扱っている内容がセンシティブだから。時代に合わない「正しくなさ」を多分に含む作品ではありますが、それを理由に避けて通るにはあまりに惜しい名作ですので、是非。

おわりに

一通り書いてから気づいたのですが、アレ忘れてました。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』。あーミスった。リアルタイムで劇場でアレ観ておいて今年の締めに触れないのは勿体なさすぎる。歴史に残るコンテンツですからね。もう番外編とかで追記しようかな。補完計画です。エバーだけに。死。あーマジでミスった。

さて、今年も面白かった作品がいっぱいありまして、どの3本を選ぼうか悩ましいところでした。『フルメタルジャケット』や『パラサイト』などの名作にガッツリくらったりもしたのですが、「今更すぎる」「素人には語りにくすぎる」という事情もあり、3本には入りませんでした。

ちょっと振り返ってみると、今年の後半から映画を観るペースが露骨に鈍化していて、理由は多分YouTubeで芸人のネタ動画漁ってる時間が圧倒的に多かったからかなと思います。というのは、昨年(2020年)のM-1グランプリで贔屓にしていたマヂカルラブリーが優勝しまして、賞レースで勝てるわけがないとたかを括って観ていたものだから、まさかの展開に痛く感動してしまい、今年はちゃんと贔屓の芸人を見つけてM-1の予選の段階から行く末を追う、という楽しみ方をしていたのです。ちなみに2020年の敗者復活で「なんでも鑑定団のマーケットプライスに”合格”と表示されて奥から仮装大賞の欽ちゃんが登場する」というオチに衝撃を受けて以来虜になっていたランジャタイが見事に決勝進出し、序盤も序盤で審査員(主に立川志らく)と視聴者の大脳新皮質の一部を破壊することに成功、そして無事最下位も死守できたということで、金属バットやキュウの準決勝敗退は残念だったものの、僕としては言うことなしの結果でした。と、ここ数日ランジャタイのことしか考えていないのが文章量に如実に現れてしまいましたが、映画の話に戻すと、エンタメ市場は可処分時間の奪い合いでゼロサムゲームなのだと言うことを痛感した次第です。

来年はランジャタイにさよならぽんぽんして、もう少し幅広にコンテンツを楽しむことができるでしょうか。無理っぽいなぁ。奴ら、M-1ラストイヤーだし。