雑記 in hibernation

頭の整理と備忘録

2020年 - 今年出会った3×3【音楽編】

今年出会ったものの中で特に印象的だったコンテンツについて、書籍・音楽・映画の3つのトピックそれぞれで3冊・3枚・3本に絞ってまとめておきます。今年リリースではなく、あくまで「今年僕が出会ったもの」なので、基本的にリアルタイム性は皆無です。

今回は【音楽編】です。今年の頭にspotifyを導入して以来「アルバム単位で聴く」みたいな習慣がほぼほぼなくなってしまい、正直アルバム単体での愛着はあんまりないのですが、慣習として盤毎の紹介とします。


sora tob sakanasora tob sakana

sora tob sakanaは2014年結成のアイドルユニットです。結成時のメンバーは5人で、のちに加入・脱退を繰り返して最終的なメンバーは3人。その後、残念ながら2020年9月をもってグループは解散となってしまいました。

ファンにめっちゃ怒れられそうなのですが、正直あまりアイドルに興味がない僕の目線で最も注目すべき点は、プロデューサーであり作編曲を担当する照井順政の存在です。そう、あのハイスイノナサの照井順政です。

ハイスイノナサは照井順政が中心メンバーとして活動しているロックバンドで、ポストロックやエレクトロニカからの影響が色濃い音楽性に特徴があります。僕がハイスイノナサに出会ったのは割と活動初期(2010年代前半くらい)のタイミングで、この頃は比較的聴きやすい楽曲が多かった記憶があります。しかし近年では作品を経るごとにドープネスが加速し、鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック大好き人間の僕としては若干寂しい想いをしていました。そんな中でハイスイノナサの主軸たる照井順政がアイドルをプロデュースするともなれば期待大です。そして「キャッチーなハイスイノナサが聴けるかもしれない」という僕の期待にまさしくそのままが応えてくれたのがsora tob sakanaだったのです。

さて、表題のアルバム『sora tob sakana』は2016年リリースです。2020年にリリースされた人気曲の再録盤『deep blue』を推してもよかったのですが、強いて一枚を選ぶならアルバム単位では一番聴いたコレかなぁ、くらいな感じで『sora tob sakana』をピックアップしました。収録曲(かつ代表曲?)のライブ映像があったので拝借してご紹介します。ど頭のキメで刺さる人をぶっ刺しにいく仕様。サビ裏のギターリフやピアノのフレーズは正しくマスロックのソレですね。


sora tob sakana/広告の街(2019.7.6 sora tob sakana LIVE TOUR 2019 「天球の地図」@代官山UNIT)

他の収録曲でも照井節は踏襲しつつ、時折「人力Akufen」とでも言うようなテクニカルなアンサンブルを見せていて面白いです。また2019年のアルバム『World Fragment Tour』ではファンクやスイング風にアレンジされた楽曲もあり、音楽的な振り幅が意外と大きい辺りも(初期の)ハイスイノナサファンとしては新鮮な驚きです。

ついでに僕がsora tob sakanaにハマるきっかけになった『発見』のMVも紹介しておきます。シングルのB面曲ですが、今年1年間マジ狂おしいほどリピートしまくってました。曲の軸となるプリミティブなリズムとタイトな上物の構成が面白く、後半のオンコード中心のエモーショナルな展開と歌詞に散りばめられたワードが不思議なノスタルジーを感じさせます。

それにしても、アイドルユニットなのにMVに女の子が1msも出てこないのはいいんですかね。


sora tob sakana/発見(Full)

sora tob sakanaに関しては正直「今年出会った」というと完全に嘘なんですが、サブスクリプションをきっかけにして2020年に爆発的に聴く量が増えたという点で個人的には「まさしく今年の顔」って感じです。


東京事変『ニュース』

僕の2020年は東京事変の復活と共に始まったと言っても過言ではありません。なんせ元旦に活動再開の第一報と共に配信が開始された『選ばれざる国民』を聴くためにSpotify契約したのが今年の僕の初手、続いて次手で東京事変の再生祝いと称したMIXを作ってますから、一富士二鷹三茄子より先に東京事変が来てたわけです。

東京事変に対しては「思い入れがある」と言うとなんか小恥ずかしいですが、ないと言えば大嘘になる感じの距離感で、活動再開ともなると色々思うところはありますよね。まあその辺りの思い入れについて言葉にするのは恥ずかしいので割愛します。

www.mixcloud.com

そして「再生」の第一報と共にミニアルバム『ニュース』のリリースにに先行して配信された『選ばれざる国民』は、活動を再開する東京事変への期待値を存分に高めてくれました。何食ったら表拍のキメをこんなにお洒落に疾走感を持って聴かせられるようになるのか。分かり易く黒めなアレンジの楽曲がリバイバル的に大流行して「猫も杓子もm7th」的な昨今、それ単体では洒落っ気の薄いシンプルなアレンジに雰囲気を持たせられる腕力を持ったバンドというのはやっぱり貴重な存在だなあと思います(あんまり関係ないけどsuchmosceroなんかもこの手の強さがある気がする。まだ若いのに凄い。)。


The Lower Classes

表題のアルバム『ニュース』はメンバーが各々一曲づつを書き下ろしたミニアルバムで、休止直前にリリースした『color bars』を意識した作りであると思われます。 アルバム全体に関しては活動休止前と比較して「変わんねーなー」ってのと「変わらなくていいのかよ」という感情が半々で、どの過去作とも違った趣を見せつつ昨今のムーブメントの一歩先を行くような『選ばれざる国民』でめちゃめちゃ期待値が上がっていただけに少しガッカリした部分もあったのですが、それでもまあ4年ぶりの事変の新譜ともあってローテーションにガッツリ食い込んではいました。

News - EP

News - EP


The Speed of Sound in Seawater『Red Version』

これは多分TTNGかTiny Moving PartsあたりのSpotifyのアーティストページに表示される「似てるバンド」を辿って見つけたバンドです。最新のアルバムでさえも2013年リリースなので、2020年の今頃になって言及するのは今更感ハンパないですが、2019年のライブの模様がyoutubeにアップロードされているので一応まだまだ現役と言っていいと思います。『Winter Solstice Baby』という曲でどハマりして、これが収録されているアルバム『First Contact』や表題の『Red Version』をはじめ、アルバム問わず今年1年よく聴いてました。

ジャンルとしては歌モノマスロックの部類ですが、キメが全体的にヘロヘロしているせいかこの手の技巧的な音楽に特有の緊張感がなく、また(そもそも音源のリリース時期が2010年代前半なので)polyphiaのような最近の楽曲に特有のHi-Fi感があんまりないです。そのせいか、第一印象は「とにかくヘボい」でした。いかにもなインディーズ的空気感はtotorroなんかに近いかもしれません。また、フォークやカントリーに通づるようなフレーズが多いのも特徴的で、2013年リリースの『Acoustics』ではこの側面が殊更に強調され、アレンジ面でルーツミュージックの影響が大きいことを感じさせます。

おすすめはこの曲。2本のギターの掛け合いで成立する絶妙なフレージング、ヘロヘロなキメ、メロディアスな歌メロと合唱、多彩な曲展開など、このバンドの良さが詰まっていて魅力を存分に感じることができます。"I am not alright !"


The Speed of Sound in Seawater - The Coldest Room in the House

あとこれはかなり個人的な話ですが、ギターのフレーズや曲展開が「自分がバンドで作る曲の理想」って感じなんですよね。できることとできないことがあって、例えばBabymetalみたいな曲はカッコいいんだけど、僕には作れないわけです。じゃあ自分が出来ることを極めようってなるとやっぱバンドベースでのアレンジになるんですけど、そのベクトルを極めたずっと先にあるのがこのバンドのような気がします。加えて、いちプレイヤーとしてもギターのヘタり具合にめっちゃ親近感を持ってしまいます。俺が上手くなったらこんな感じだろうなぁ、みたいな。ちなみにyoutubeに上がっているライブ映像を観ると分かりやすいんですが、このギターの人めっちゃうまいです。

(すごく勝手な物言いで言われた方も迷惑だと思うのですが)なんだか他人事とは思えない、というところも「好き」の一因なのかもしれません。

Red Version - EP

Red Version - EP

  • The Speed of Sound in Seawater
  • ロック
  • ¥1224


まとめ

spotifyの導入により音楽の聴き方が一変した年になりました。気になるバンドを最寄りのTSUTAYAで探したり、なければ渋谷店で探してみたり、それでもなければジャニスに行って、かくなる上はもう音源買うしかなくてお財布とにらめっこしたり、そういうのはもうやらなくて良いんですね。ライトなリスナーからしたら本当に素晴らしい時代だ。

技術の進歩とともに音楽鑑賞、というか音楽を「発見」する行為が「ハレ」から「ケ」へと変わっているように感じていましたが、それを肌身で体感した年となりました(これについてはそのうち記事のネタにするかもしれませんので、この場で文字数を割くのは控えておきます)。とは言え、聴く音楽の幅が急に広がったかというとそうでもなく、レンタルにない、もしくは予算がないなどの事情で過去に入手できなかった曲を改めてさらっていくような聴き方がメインになっていました。今年よく聴いたのも10年代前半くらいのアルバムが多かった気がします。そんな聴き逃しリベンジブームもここ1,2ヶ月くらいでようやく落ち着きつつあり、最近ではだんだんと再生回数1万もないようなミュージシャンをdigるような聴き方にシフトしつつある今日この頃です。来年は新規開拓が中心になってきそうな予感。

他に特筆すべき点として、冒頭にも触れましたが、ほぼアルバム単位で聴くことがなくなりました。spotifyを使っている人だとわかると思うんですが、アーティストページトップの人気曲のシャッフル再生で済ますことがほとんどで、さらに気に入ったバンドはアルバム単位で掘り下げて聴くって感じでした。ただ、曲単位の聴き方ではあまりに視点がミクロに寄りすぎて、アーティストの変遷や市場の流行り廃りといったのメタ的な情報との繋がりは完全に経たれてしまうなあとも感じました。サブスクリプション全盛の時代にありながらアルバム単位でハイコンテクストな聴き方を貫いてる人、マジで偉いなあと思います(あるいは新譜中心にチェックしていると自ずとアルバム単位での聴き方になってくるのかもしれませんが)。

いずれにせよ、僕みたいなライトリスナーはともあれ、意識高めなヘビーリスナーの音楽体験は今も昔もあんまり変わらないのかもしれません。