雑記 in hibernation

頭の整理と備忘録

2020年 - 今年出会った3×3【映画編】

今年出会ったものの中で特に印象的だったコンテンツについて、書籍・音楽・映画の3つのトピックそれぞれで3冊・3枚・3本に絞ってまとめておきます。今年リリースではなく、あくまで「今年僕が出会ったもの」なので、基本的にリアルタイム性は皆無です。

最後は【映画編】です。しかし改めて3選を並べてみると完全に「今更映画祭」って感じで、架空の映画祭が開催されていて自分でウケてしまいました。今更ではありますが、言及する価値のある作品群だと思うので、もし見逃している作品があれば是非チェックしてみてください。


マトリックス(1999年)

あまりにも、あまりにも今更すぎる。ブログで「2020年のマイベストはマトリックスです」とか言ってるの俺しかいないと思う。マジで。

マトリックスは3部作のうち1,2作目は劇場で観てるんですが、なんせ当時は小学生だったものだから、記憶も定かでない。で、たまたまNetflixあるのを見かけたので3作通して再鑑賞したのですが、特に無印がめちゃめちゃ衝撃的だったわけです。

マトリックスの佳処は大きく「設定・世界観」と「ビジュアル」の2点だと思っています。まず設定面ですが、「人間が機械に支配されて夢の中で生かされている世界で人類を救うために仮想空間をハックして闘う」という設定自体が斬新で魅力的です。さらに、作中には観る者に理解させようとする気が全く感じられない小難しいワードと思わせぶりなセリフが飛び交い、脳がバグって説得力を錯覚するようになります。この辺りの畳み掛け感、この煙に巻かれる感じも「SFを観てる!」って感じでマジ最高です。作中で明かされるマトリックスや主人公の存在意義もなかなかインパクトがあるのですが、どんでん返しに頼らずとも圧倒的に世界観を構築・表現できているところがマトリックスというコンテンツの強さだと思います。

また、この世界観・設定をビジュアルで完全に表現しきっているのも魅力の一つです。当時最先端のVFXは20年経った今でも十分鑑賞に耐え得りますし、CGにより描画されるアクションが身体性の限界を超えて「想像でのみ到達できる動き」としてVFXと世界観とがしっかり合致しています。敵味方問わず衣装がスタイリッシュで統一感があるのもめっちゃいいですね。反復するイメージがどこか悪夢的・ディストピア的な印象を抱かせます。

細かいところでは細部の描写も素晴らしく、マトリックスへのアクセスには電話線を使うとか、デジャブはプログラム改変の兆候だとか、節々の描写から設定に奥行きを感じ取ることができます。

残念なのは無印が素晴らしい分2,3作目の失速が激しいこと。今年4作目の制作決定が話題になってましたが、あんまり期待できないかなあ。

マトリックス (字幕版)

マトリックス (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


スノーデン(2016年)

2013年に米国の国際的な監視体制を告発して話題となった元CIA局員のエドワード・スノーデンドキュメンタリー映画です。今年亡命先のロシアで永住権を取得してニュースになってましたね。

仮に現実のスノーデンに関する一連の出来事を全く知らない人にこの映画を観せたとして、多分これが実話だとは思わないと思うんですよね。描かれている内容があまりにも現実離れしすぎていますから。だってこんなの客観的に観たら「監視社会に翻弄されるエージェントの苦悩を描いた近未来ディストピアSF映画」じゃないですか。「ところがどっこい・・・フィクションじゃありません・・・!現実です・・・!これが現実・・・!」と、まあもちろん脚色もあるでしょうが、スノーデンが告発した大枠の事実は米国政府が認めるところでもあります。

ところで、「見る-見られる」の関係の非対称性を扱った作品として、アメコミの名作『ウォッチメン』を連想しました。監視社会に対する嫌悪感の根底には、機能の面でそれが合理的か否かに拠らず、「誰が見張りを見張るのか」もとい「見張りを見張るものの不在」により民主主義が揺らぎかねない危うさに対する批判的な視点があるように思います。

「我々はもうディストピアSF小説の世界に片足を踏み入れている」という現実を実感する意味で、「映画を楽しむ」と言うよりも「映画みたいな現実を楽しむ」映画だったなあと思いました。

スノーデン(吹替版)

スノーデン(吹替版)

  • 発売日: 2017/07/05
  • メディア: Prime Video


ナイトクローラー(2014年)

2019年にホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』がアカデミー賞を2部門受賞し、日本でも大ヒットして話題になったことが記憶に新しいところです。『ジョーカー』のような「陰キャ闇落ち映画」ともいうべきタイプの映画は種々存在していて、例えば『ジョーカー』の元ネタとされる『タクシードライバー』や『キングオブコメディ』が挙げられますが、『ナイトクローラー』もこの系譜にあるものと僕は考えています。

本作のざっくりしたあらすじをご紹介しておきます。主人公は職にあぶれた男で、ふとしたきっかけでフリーランスのカメラマンとして活動し始めます。夜な夜なスクープを求めて活動を続ける中で徐々にカメラマンとして頭角を表しつつも取材は熾烈さを増し、同時に主人公の振る舞いも日に日に尊大になっていきます。衝撃的な報道が連日連夜放送されるにつれ、よりショッキングな映像を求めて報道が過激化していく中、主人公の取材活動もまた際限なく暴走していく、というストーリーです。

陰キャ闇落ち映画」の大まかなプロットとして、まず自由主義の原理で動く市場・社会と、そこから溢れてしまい上手く生きていくことができない主人公がいます。主人公は自らの存在意義や居場所を見出すために自分がかろうじて出来る何かに縋ろうとしますが、往々にしてそれはモラルに反する行為であったり、もしくは犯罪であったりします。しかし主人公には最早善悪の判断ができるほどの余裕はなく、その行為に執着し、暴走していきます。

このようなストーリーラインを、『タクシードライバー』は突き放した目線で描き、『ジョーカー』はより同情的に、かつ「社会的アイコンと現実の自分との2面性」「分断されたlower class」という現代的な設定を盛り込んで描きました。これらの作品があくまで個人に焦点を当てていたのに対し、『ナイトクローラー』は主人公を通して「社会」あるいは「システム」全体のありようを描こうとしていたように見えます。つまり、より多くの刺激を求めた結果、倫理のボーダーに対して盲目的になってしまいがちな市場の現実です。

上記のように見るからに社会派な切り口でありつつも、理解の難しい作品かと言えばそうではありません。主人公の人間性の浅薄さが滲み出る台詞回しや、前半のいかにも垢抜けない振る舞いからは「陰キャ闇落ち映画」の醍醐味が存分に味わえる一方、映画が進むにつれてテンポ・画面のスピード感・起きる出来事の過激さがみるみる増していくことで不思議と心地よいスリルと疾走感が感じられるエンターテイメント性抜群の作品です。ストーリー自体は後味の悪さを残しますが、これが許容出来るならめちゃめちゃ楽しめるんじゃあないでしょうか。

お勧めです。  


まとめ

相変わらず映画は全く観ないわけではないけど、シネフィルというほどたくさん観てもいない、みたいなぬるい状態が続いています。その割に観たら観たであーでもないこーでもないと講釈を垂れずにはいられないもんだからタチが悪いですね。

今年は巣篭もり需要と言うやつで、自宅での過去作品の鑑賞頻度がだいぶ上がったように思います。スタッフやキャスト繋がりで作品を追っていくのもかなり楽になり、素人なりにコンテクストを踏まえた鑑賞スタンスに自然とシフトしていたようにも思えます。サブスクリプションサービスの特徴として製作者の人脈が可視化されやすいという点があると思いますが、サブスクの浸透により単に再生の回転数が増えること以上に受け手のリテラシーの向上に寄与している部分もあるんじゃあないかと感じました。

また、個人的には今年からfilmarksを積極的に活用するようになり、過去の感想と比較しつつ新しい作品を鑑賞するようになりました。昔の感想と今の感想を比較すると視点が違って興味深いですね。価値観が変わっているというよりは視点が広がっている感じで、好きな作品の幅の広がりを実感しています。

filmarks.com

映画の好み自体はここ1,2年くらいで徐々に変化していて、少し前までは一本筋の通ったプロットがあるわかりやすいエンタメ作品が好きでしたが、最近は派手さやわかりやすいプロットがなくても、人間臭さが画面上に現れていたり、雰囲気がよかったりする作品が好きです。中でもマーティンスコセッシの『グッドフェローズ』なんかは大好きで、ここ数年定期的にリピートしてダラダラと流し観してます。何が面白いのかわからないんだけど、なんか観ちゃうんですよね。音楽で経験していた「嫌いな作品の嫌いな部分は言葉にできるが、好きな作品の好きな部分は説明できない」現象が映画でも発生しつつあるなあと感じています。

今年はまあそんな感じで、自宅での過去作鑑賞ライフが充実した一年でした。一方で劇場での鑑賞機会が減ってしまったのは残念でしたね。今年劇場で観た映画はクリストファー・ノーランの『テネット』だけでしたが、それさえも劇場でのフード類は販売中止されていたりと、普段の映画鑑賞とはちょっと違う環境ではありました。だんだんと劇場公開も復活しつつありますので、来年はもう少し劇場に足を運べたらなあと思います。まあ僕自身は元々そんなに映画館に通っていた方ではなく、作品そのものというよりは映画見ながらポップコーン食べる体験が恋しいって感じです。

とりあえずポップコーン復活してくれ、頼む。