雑記 in hibernation

頭の整理と備忘録

2021年 - 今年出会った3×3【音楽編】

今年出会ったものの中で特に印象的だったコンテンツについて、書籍・音楽・映画の3つのトピックそれぞれで3冊・3枚・3本に絞ってまとめておきます。今年リリースではなく、あくまで「今年僕が出会ったもの」なので、基本的にリアルタイム性は皆無です。

今回は【音楽編】です。昨年に続きアルバム単位で聴く習慣がほぼほぼなくなってはいるのですが、慣習として盤毎の紹介とします。


mekakushe『光みたいに進みたい』

光みたいにすすみたい

光みたいにすすみたい

Amazon

シンガーソングライター mekakushe が今年リリースした1stフルアルバムです。去年見つけてから割とヘビーローテーションしていて、去年の「今年出会った3×3【音楽編】」にも挙がる勢いではあったのですが、とりあえずフルアルバムが出るまで保留にしていた状況でした。そんな中、ついに今年待望のフルアルバムをリリースってことで、待ってましたとばかりに今年は大手を降って「今年出会った3×3【音楽編】」に選ぶことができました。

表題のアルバムのキラーチューン的ポジション(だと思う)曲をご紹介します。

この曲に限らず、コードとメロディの流れ方ががっちり硬いソングライティングでありつつ、キャッチーなフレージング的メロディもきっちりハメていくバランスがめちゃめちゃ好きです。このAメロのアレンジの「歌Powerで持ってく」感も良い。完全にソングライティングを信用しているアレンジです。

ところで、曲を聴いてていまいち掴み兼ねるのが、この方は一体どういうバックボーンなんだろうってことです。同アルバムからもう一曲、『ペーパークラフト』という曲をピックアップします。これは確か去年シングルとして出ている曲ですね。アルバム中でも一際存在感を放っています。超好き。

確かmekakusheを知って初めて聞いた曲がこれだったのですが、まずイントロのピアノで驚いた記憶があります。ピアノトリオのストイックな編成で、休符の使い方やノリの揺らぎ、音の響きからジャズっぽさも感じるんですが、メロディラインからはコテコテにジャズがルーツって感じもなくて、あまり背景が見えてこないのが不思議でした。他の曲も聴くようになってからこの曲は割と珍しいタイプのアレンジだとは分かったのですが、同じピアノトリオ編成の曲はもっと聴いてみたい、作ってほしいなと思います。

全体的にアレンジも好みで、インディー的なローファイサウンドからノイジーサウンドスケープ、新作ではヒップホップ風のトラックまでこなしていますが、全体的に奇を衒わず、また過度にドープになりすぎない、洗練されすぎない素朴さも感じます。mekakusheは一度名義を変えているようで、前名義の作品までは追えてないのですが、少なくとも改名以降は野澤翔太さんという方がアレンジを担当されているそうです。全部単独犯なのでしょうか。作品を追うごとに幅が広がっているので、そこも含めてチェックしていきたいです。


The Avalanches 『Since I Left You』

Since I Left You

Since I Left You

Amazon

個人的にここ数年、サンプリングに対する興味が強まっています。きっかけは多分RHYMSTERの『ゆめのしま』と『The Choice Is Yours』だったと思います。両曲ともキエるマキュウのIllicit Tsuboiのワークスでトラックがめちゃめちゃカッコいいのですが、元ネタを踏まえて聴くと「このフレーズをこうやって使うのか」的な驚きで余計に面白い。ちなみに、『ゆめのしま』はELOの『The Whale』、『The Choice Is Yours』はMark Capanniの『I Believe in Miracles』が元ネタです。両者ともテンポとエフェクトの処理を変えるだけで元の素材の質感を残しつつ、驚くほど現代的にハマってくるところがサンプリングの妙だなぁと感じます。さらに後者は『I Believe in Miracles』に関する逸話もすごくて、こことか読んでいただければ。

同じサンプリング手法でも、ボーカルを一音単位でカットアップしてガキ的に音を並べるフレージングは中田ヤスタカやBanvoxが割と市民権を得ている気がします。個人的にはin the blue shirtsとか好きですし、なんなら自分でもそういう曲を作ったりしてます。

soundcloud.com

一方、フレーズを丸ごと引用するタイプのヒップホップ的なサンプリングはボーカルカットアップとは若干趣向が異なります。この手のサンプリングはJ-POPとしては例が少ないように感じますし、著作権上の扱いや、所謂「パクリ」との線引きで受け手のリテラシーが問われる面があるなど、やや敷居が高いような気もします。一方では元ネタを踏まえたコンテクストを持たせやすい点でポップアート的な性格が強く、非常にオタク向けというか、あーだこーだ言って楽しむ余地もありそうだなあとも感じます。そのようなサンプリングの面白さに気づかせてくれたのが、先述のRHYMSTERの2曲だったというワケです。

さて、前置きが長くなってしまいました。ここでご紹介するThe Avalanchesの『Since I Left You』はまさしくサンプリングにサンプリングを重ねに重ねて作られたような一枚で、なんと元の版は20年も前に発表されています。今年はリリース20周年ということで、記念版も発表されています。

表題曲はこちら。

いや、どの音がサンプリングなんだ。っていうかひょっとしてビート以外全部サンプリングなんじゃあないのか。なんか馬の鳴き声とか入ってるけど。なんとこのアルバム、元ネタは900以上とのこと。収録曲が18曲なので、単純計算で1曲あたり50の元ネタがぶち込まれています。密度ヤバ。

似た作りのアルバムとしてAkufenの『My Way』を連想したのは僕だけでしょうか。Akufenの場合は既存の音源をパーツとして切り出してリズムを構成するという先述のボーカルカットアップに近い方法をとっているのに対し、The Avalanchesはフレーズの素材を活かしてサンプリングそのもののクリエイティビティを押し出している点でヒップホップ的に感じます。また、サンプリングの魅力として、パッケージを変えることでネタの響き方が劇的に変わるというパズルゲーム的な面白さがあり、ピースの継ぎ目が合わない歪さすらもカッコよさに転嫁できる、という側面があります。尋常でない密度でサンプリングが詰め込まれた本アルバムは、そのようなサンプリングミュージックのツギハギの魅力を存分に味わうことができるのではないでしょうか。まあ元ネタを追うのは相当キツそうではありますが。

サンプリングの要素以外に、個人的にこのアルバムの好きなところがもう一つあり、それは「シームレスである」という点です。一曲一曲の切れ目が明確でなく、DJミックスのように曲間が繋がれていて、また一曲の中でもフレージングやコード感がガラッと変わったりするので、そもそも曲の区切り自体にも意味がないように思えます。そのため、どちらかというとアルバム一枚ずっと流しておく、みたいな楽しみ方がメインとなり、結果としてアルバム単位で一番よく聴いたのは多分コレ、という感じでした。


CRCK/LCKS 『CRCK/LCKS』

CRCK/LCKS

CRCK/LCKS

Amazon

mekakusheと同じく、割と前から聴いてたけど特に今年はよく聴いたアルバム(というかシングル)として表題の作品をピックアップしました。CRCK/LCKSというバンドは全くなんの前情報もない状態で、漠然と「最近出てきた(イケすかない)若手のバンド」みたいなイメージで聴いたので、最初はとても衝撃的だった記憶があります。いや、垢抜けすぎてるでしょ、と。そのあとWikiかなんかを見て合点がいったわけです。全員経歴がガチだ。

確固たる教養と技術のある人らが徒党を組んでポップスをやっているバンドと聞いて僕が連想するのはScreaming MaldiniというUKのポップバンドです。彼らは確か音大の声楽科出身で、クラシック寄りのバックグラウンドのようですが、CRCK/LCKSはジャズ寄り(っぽい)っという点で対照的です。

表題のシングルから、個人的に好きな曲こちら。

っていうかここで取り上げるためにググって初めて知ったんですけど、「作詞:園子温」ってなんだ。園子温の詩を元に曲を作ったということらしいんですが、まあいいや。

(「作詞:園子温」以外に)個人的に気になったのは、全体的にバンドならではの生っぽいリズムの合わせ方が多いことです。例えばHiatus Kaiyoteなんか聴いても同じことを感じるのですが、クリックに合わせて一人でアレンジしている限りでは絶対浮かばない、再現できないリズムの合わせ方をしている。身体的なアレンジ、録音ができるというのはバンドありきの良さで、もっというと「バンドで演奏されること」がその音楽が成立するための必要条件になるタイプの音楽に根付く良さだなあと思います。個人的には、時代がソフトになるほど、ハードありきの音楽の魅力が増していくように感じます。

個人的にこの曲の面白いと思うところがもうひとつあって、サビで歌詞がポリリズムっぽくなってるんですよね。具体的には「木っ端微塵で飛び越えろ」ってラインなんですが、これが小節をまたいで同じように2回繰り返されるんです。楽器が弾くメロディラインでポリリズムってのはよくありますが、歌詞でそれに近いフレージングをするってのが面白いなと思いました。パクりたいけど、半端にやると間抜けになりそう。というか、間抜けに見えそうなアレンジを真顔でやり切ってお洒落にキメるのがこの手の超絶おしゃれバンドの説得力ですね。やっぱり、垢抜けすぎている。


おわりに

正直、今年はあんまり音楽聴いてないです。Spotifyのミックスが結構面白くて、新しい音楽に触れる機会そのものは増えているんですが、ヘビロテするような音楽には出会えなかったかなって感じです。

Spotifyのミックスはとても良いですね。The AvalanchesもCRCK/LCKSも(確か)ミックスで出会いましたし、名前は聞いたことあるけどイメージ先行でちゃんとチェックしてこなかった人とかも「あ、こんなんなんだったんだ」ってなるのがいいです。

どういうロジックなのかわかりませんが、あんまり再生数いってないような人もちょくちょく関連アーティストの欄に出てくるのも良いです。まあ再生数なりのクオリティであることが多いので、玉石石石石石混合って感じではあるのですが、新しい音楽に出会うきっかけとしてはちゃんと機能しています。最近びっくりしたのは、おすすめされたYAYYAYというバンドが良くて、音が全然素人っぽくないなーと思って調べてみたら元GOGOのギタボのバンドだったという。現時点でハマるほどきてはないんだけど、昔の椎名林檎の正当進化みたいな感じでかなりいいんで今後の作品に期待って感じでした。

加えてレコメンドに期待することとしては、関連するミュージシャン同士の関係性が見えるとなお良いです。Aを聴いたらBがレコメンドされたって場合に、AとBはどういう関係なのか、例えばサポートでメンバーを貸し借りしているとか、よく対バンやってるとか、どっちかがどっちかに影響を受けている、とか。樹形図まで出てきたら完璧。まあ難しいんでしょうけど(あと需要もそこまでないんでしょうけど)、そこまでできてようやく「ディグる」という行為のDXが達成されたと言えるかな、と思っています。技術の進歩に期待。