雑記 in hibernation

頭の整理と備忘録

技術とバイブスの84年

500字を超えるくらいの文章を書くときはある程度構成や論旨を考えてから手を動かすのですが、この文章は完全に見切りで書き始めています。とにかく今思っていることを書き連ねていきます。

さて、今週の中頃のこと、個人的に結構大きなニュースがありました。

これです。 

www.nikkei.com 

オリンパスの映像事業(デジタルカメラの部門)が売却されるそうです。まあ業界的にも大ニュースですよね。カメラに興味ない人からするとどうなんでしょう。"OLYMPUS"というブランドの名前自体は結構知れていますから、それなりに話題性のあるトピックだったかもしれません。

スマートフォンの普及以降、ヤバいヤバいと言われ続けていたスチルカメラ業界でついに脱落者が出てしまった訳です。「オリンパスがやられたか」「スマホ如きに負けるとは、奴は四天王の中でも最弱、、、」的な、まあシェアや収益から見ても四天王と呼べるかも微妙な厳しいポジションではありましたから、いつか必ず来るであろうその日が今日この時だった、ということなんだろうと思います。

 

僕はと言えばオリンパス製品のユーザであり、また詳細は省きますが公私共に「ひとかたならぬ恩と仇」を感じているので、なんとも様々な想いが交差しています。 

 

ニュースリリースによれば目下のところブランド自体は無くならないようですし、製品開発もカスタマーサポートも続くそうです。オリンパス映像部門の製品が市場から消えてなくなるわけではなさそうですから、ひとまずのところ安心しています(新会社から出るのは「OLYMPUS」の名を冠する製品ではないかもしれませんが)。

dc.watch.impress.co.jp

 

しかし製品そのものが存続するとはいえ、事業売却ともなればユーザとしては不安を覚えることも確かです。今後も製品の贔屓になることを前提として、まず表面的なレイヤーで僕が個人的に気になっているのは品質と価格の点です。

売却後は基礎研究レベルの技術開発を内視鏡、顕微鏡の分野と独立して行わなければならないでしょうから、これまでと比較してリソースが大きく削がれることが予想されます。このことは中長期的に製品に搭載・採用される技術のレベルに影響します。

これは生産技術に関しても同様です。生産技術の目的は、簡単に言えば製品を「安く、早く、狙った品質で作る」ことです。生産技術で遅れをとるということは、すなわち同じものを作っても「高く、遅く、品質にばらつきがある」ことになります。ユーザの視点で言えば、性能の割に値段が高いとか、製品供給にムラがあるとか、そういった不都合に繋がってきます。

とはいえ、この辺りはそもそも研究体制が事業間でどの程度癒著しているか次第でもあるので、案外、分社化されたところで大した影響がない可能性も多分にあります。部外者の目線では想像の範疇を出ない部分です。

また、売却先は既にVAIOで実績のある日本産業パートナーズですから、経営・開発体制の再編による事業の健全化も期待されます。カーブアウトとは異なりますが、技術力を活かしての再建を狙った買収という点では、鴻海に買収されテコ入れを受けて復活したシャープが記憶に新しいところです(ちなみにシャープがマイクロフォーサーズに参画した際、オリンパスの映像事業が売られるとしたら相手は鴻海かな、とか勝手に考えていました)。

ですので、経営・研究開発体制の視点では必ずしも憂慮すべき事態であるとは言いきれず、というか現時点で僕程度の知識と情報量では「なんとも言えない」わけです。

という感じで、「わかりませんでした!いかがでしたか?」で締めるタイプの巷に溢れるクソブログのフレーバーが漂い始めてきたところですが、もうちょっと言いたいことがあるので、もうちょっとお付き合いください。

 

今回の売却に際して賢明な愛好家の方々が残念に思われているのは、前述のようなどう転ぶかもわからない開発体制の事ではないと思います。僕なんかよりも遥かに年季の入ったヘッズの皆様が気にされているのは、なによりもまず「オリンパス」の名前と、そこに込められた「ものづくりのバイブス」の行方ではないでしょうか。

僕は銀塩時代のことについてはよく知りませんが、オリンパスの映像部門は1936年の創業からの歴史と、それに基づく技術者集団としての強固なアイデンティティを持った事業体であると認識しています。銀塩カメラとしてはPENやOMシリーズに代表される革新的な製品を世に送り出し、またデジタルの時代においても他社に先駆けてミラーレスへ本格的に進出するなど、その功績は今更僕が語るまでもありません。むしろ殊更のカメラ愛好家でなくとも、一家に一台写真機があった時代に生きてこられた方々こそ、オリンパスの写真機が生活にとってどのような存在だったのかを身をもって感じてこられたことと思います。

今現在、世界で存在感を示す企業といえば軒並み情報通信分野の外資系企業です。それは検索屋さんであったり、通販屋さんであったり、あるいは前略プロフ屋さんであったりするわけですが、父母から伝え聞いた伝承によると、その昔世界に名だたる憧れの大企業といえば日系のメーカーを差し置いて他にはいなかった、そんな時代があったのだそうです。「真面目で勤勉な日本人は量産した三種の神器ウォークマン戦勝国どもを蹴散らしまくったとさ。めでたし、めでたし。」

日系企業の全盛期といえば、今では「凋落」としか言いようのない現状と比較してやや自嘲的に語られることが多いですね。「いいものを作れば売れる」という考え方から脱せなかったことが敗因とも言われています。しかしそれでもなお、創業以来の盛衰の時を経つつも米谷さんの時代から続く「ものづくりのバイブス」を柱に、その価値観に共感したエンジニアたちが実直に積み重ね続けてきた技術と歴史の集積を想うと、全くもって敬意を払わずにはいられません。

結局のところ古くからのオリンパス愛好家の方々が最も魅力を感じているのは、脈々と受け継がれてきた無形の資産たる「ものづくりのバイブス」とこれを具現化した製品群に対してであって、これが「OLYMPUS」の名とともにぷっつり途切れてしまうような不安があるのではないか、という気がします。

「いや、ただ今後のロードマップが不透明で不安なだけなんだけど」みたいな話だったらすみません、完全に僕の深読みが過ぎました。これ書いてるの陰謀論とか都市伝説とか好きなタイプの人間なんで勘弁してやってください。

 

そういえば、どこかのニュースサイトで「84年の歴史に幕」なんて見出しの記事を見かけました。言わんとしていることはわかるのですが、勝手に緞帳を下ろしてもらっては困ります。映像事業の創業84年目は激動の年になりそうですね。85年目は、その先は、どうなってゆくのでしょうか。社名は変わってしまっても、志変わらずでいていただけるなら、それがなによりだと思います。

まあ今後の製品の将来ついてはもはや本社・売却先・そして映像事業の技術者をはじめとした従業員の皆様に委ねる他ありません。こういう時、愛好家にできるのはただ信じて声援を送ることのみです。

「ものづくり Goes on 」、期待しています。

 

 

最後は撮って出しの、混じりっけのない「OLYMPUSの色」な一枚で締めたいと思います。

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Body: OM-D E-M5 Mark II / LENS: M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8