雑記 in hibernation

頭の整理と備忘録

『パラレルワールドのアイツ』のはなし

NHKスペシャルで特集されるひきこもりの中高年や、「幸せそうな女性」をターゲットにした通り魔や、SNSで芸能人にクソリプ飛ばして溜飲下げてる人らや、「不況で風俗のクオリティが上がって嬉しい」的な発言をしたお笑い芸人や。そういう人たちを見ていると、なんだか他人事に思えず虚しい思いがします。その理由は大きく2つあって、一つは、僕の心のどこかに、確実に、彼らと同じように社会から逃げ出したい気持ちや他人へのコンプレックスが燻っていること。もう一つは、その負の側面がいつどんなきっかけで表出するかはわからないし、結果としてそれを抑えきれなかった彼らが、一歩道を踏み違えてしまった並行世界の自分自身のように思えてならないからです。

ほんの小さな機敏で自分が「そちら側」にいたかもしれないと、そんな考えが頭をよぎることがしばしばあります。それは、何もできない、何も好きになれない、努力もしない、しかし自意識と承認欲求ばかりは高く、それゆえに人との間に壁を作り、人と接することを避け、経験の浅さゆえに偏見だけで物事を語り、その偏見を隠そうともせず、あまつさえ価値観の異なる他人を攻撃しようとする。そんな輩がメディアを通してこれでもかというほどに可視化されているからです。

僕はと言えば、ご多分に漏れず差別感情にまみれ、相当に彩度のキツい色眼鏡をかけている自覚があります。しかしそれで何か知ったような口を利いてしまえば、その行為で他人を傷つけうることは理解していますし、そのような言動がないよう常日頃意識しています。高慢かもしれないけど、はっきりと「そこいらの不届者と一緒にしてくれるなよ」という自負もあります。それでもなお、彼らの姿を見ているとまるで鏡を覗いているような気持ちになるのです。それは、なんとか致命的な間違いを犯すことなく(一応、今のところ道徳的・経済的に間違っていない道を進んできていると自認しています)生きてきた僕と、どこかで選択を誤ってしまった彼らとの差は、所詮は環境、資質、運といった不可抗力な要素にすぎないと感じていて、なおのこと彼らと自分との間に本質的な差などないように思えるからです。そんな具合に、露骨に社会に不適合な方々を見かけるたび、彼らはパラレルワールドの自分なのではないか、と強く感じるのです。

そういえば、伊集院光のエッセイ集『のはなし』(シリーズがいくつかあるけど、多分『にぶんのいち ~キジの巻~』だったと思う)にもちょうどそんな話があったことを思い出しました。『「ニート」の話』という回で、簡単に説明すると以下のような内容です。

筆者がニュース番組に出演した際、ニート問題をテーマとした討論が行われた。全体的にニートに対して批判的な論調であったが、いつニートになってもおかしくない環境にいた、そして今なおそれに近い精神状態にある自分から見れば、視聴者の自意識を散々煽ってきたメディアがどうこう言える問題ではないように思える。番組中では自信がなくて話すことができなかったが、本来ならばもっと弱者寄りの立場から発言すべきであった。と。

そんなこんなで、いわゆる「社会的弱者」または「社会不適合者」と自分との曖昧な境界線と伊集院光の後悔の念に想いを馳せていたところ、ちょうど「ホームレスの命はどうでもいい」的な発言でYoutuber(?)が炎上、というタイムリーな話題が。社会福祉セーフティーネットの経済的合理性とか、そもそも「ホームレスのケアは不要」と「生活保護に税金使うな」は論点が全く違うとか、そんなことは改まって僕がどうこういうべくもないので置いておきます。件の主張に賛同する人々に対して僕が感じるのは、社会的弱者を「自分とは全く関係ない他人」におくことができてしまう程度の想像力の欠如です。そして嫌味でもなんでもなく、僕はそういうスタンスをちょっと羨ましく思います。ほんの小さな幸運が重なった結果得られた、そこそこ安定した僕の生活とメンタルは、逆にほんの小さな不運でもって崩れていく(あるいは崩れていた)のかもしれません。そのことが日々の暮らしの隙間でふと頭の片隅に過ぎるたび、なんとも身の毛のよだつ思いがするのです。

(ついでに言うと、失言の当事者に対しても、やっぱり自分も一歩間違えて同じようなことを口走ってしまう可能性があったかもしれない、と思ってしまいます。重層的で面倒くさい話ですが。)

さて、なんだか辛気臭い内容になってしまいましたが、別にこれといった結論があるわけでもないし、いったん思っていることを言葉にできたので僕としては満足です。流石に後味が悪いので、最後に先に紹介した『のはなし にぶんのいち~キジの巻~』でおすすめの回とハイライトを紹介しておきます。

  • 「縄跳び」の話:デブは縄跳びを猛練習すると四肢が痛むより先に乳首から血が出る。

  • 「寝言」の話:『がんばれ!!ロボコン』の主題歌を寝ながら熱唱。だいぶ後半部分で歌いながら起きる。

  • 「フリマ」の話:フリマで値切りおばちゃんを相手に意地を張ってハイパーインフレを起こす。ファンを一人減らす。

  • 「豆知識」の話:「豆かぶせ」という言葉は伊集院光がコラムの中で適当に作った。その伊集院光は引退後にカナダでゴリラに殴られて死んだ。

多分何も伝わっていないと思うので、ぜひ買って読んでみてください。